2020年3月12~13日の市場崩壊について: MakerDAOが受けた影響

April 8, 2020

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3月中旬に資本市場と暗号通貨市場の深刻な低迷が起こり、MakerプロトコルとMakerガバナンス・コミュニティに試練が立ちはだかりました。Maker有権者がシステムを管理しているMakerガバナンスは、外部がほぼ壊滅的な状況の中、協力しあって完全に分散化された形でMakerシステムを査定および管理しました。

以下の情報では、市場で起こったことの背景について説明し、それによるMakerへの影響、ガバナンスの迅速な対応および今回の経験から得られた重要な考察について詳述していきます。

市場崩壊の背景

コロナウイルスと原油価格競争を取り巻く不安定な状況により、2月20日頃から資本市場の深刻な低迷がもたらされました。資本市場での価格急落によって、3月12日から13日にかけて36時間の間に、最終的には資本市場と暗号通貨市場が両方とも完全に崩壊するに至りました。


3月12日のETH市場動向(提供:Ethereum Price

この崩壊により、ETH、BTCおよび暗号市場全般の価値の50%以上が失われました。イーサリアム・ブロックチェーン上でトランザクションが爆発し、それによってネットワークの混雑が引き起こされ、ガス価格が大幅に急上昇しました。


3月12~13日のガス価格急上昇

MakerDAOへの影響

ネットワークの混雑とガス価格の高騰によりトランザクションに遅れが生じ、多くの場合トランザクションができませんでした。これらの問題が未曾有の資産価格の下落と共に、Maker Vault所有者、キーパーおよび流動性プールの隙を突いてきました。担保価格のデータソースであるオラクルは正常に作動しましたが、他と同様の遅延の影響を受けました。上記の状況の結果、多数のオークションが引き起こされ、それらオークションのうちの一部はゼロ以上の小数の入札を提出した入札者によって落札されました(「ゼロ入札者」が「ゼロ入札」を提出)。

Vault所有者が直面した問題

Vault所有者は、Makerプロトコルが与えている1時間の猶予の間、担保を追加しようとした、またはVaultにDaiを返却しようとした際に、ガス価格の高騰とトランザクションの遅延に苦しみました。

キーパーが直面した問題

キーパーもまた多くの面で苦労しました。市場崩壊の最中には、4つのキーパーが複数のボットを稼働していました。キーパーのボットのいくつかはDaiの流動性への迅速なアクセスが困難であった一方で、全てのオークションには参加することが不可能であったキーパーの「ボット」もありました。流動性のあるキーパーは、異例の数のオークションに直面しました。このようなキーパーはオークションに参加することはできたものの、流動性が急激に消費されたため、担保をDaiに戻してさらなるオークションに参加するには十分な時間が全くありませんでした。

何時間にもわたりキーパーの入札能力に影響を与えた今回の出来事の最中に、Maker Foundationはキーパーのボットを一つ稼働していましたが、そのボットはネットワークの極度な混雑によって増幅された技術的問題に直面しました。キーパーが最終的にDaiの流動性を使い果たし、さらなるDaiを調達するまで数時間の間入札ができなかった間に、その他の2つのボットがゼロ入札を提出しました。

取引所が直面した問題

事前のDai市場活動と関連した暗号通貨市場の急激な下落は、Daiの流動性に重大な影響を与えました。その結果、取引所、とりわけ中央集権的取引所が唯一の流動性供給源でした。それでもなお、中央集権的取引所もネットワークの混雑とキーパーへのおよびキーパーからの資産移動の遅延に悩まされたので、流動性にアクセスすることは難しかったです。

Daiが直面した問題

3月12日までの期間に、そして3月12日当日に起こった出来事は、エコシステム全体のDai不足を引き起こし、その結果Daiの米ドルへのソフトペッグ維持が困難になりました。3月12日以前には市場全体でDaiの需要が高まっていましたが、3月12日の市場の広範囲に及んだ出来事により、この状況はさらに悪化しました。その結果、Daiの市場価格は急上昇しました。例えば、TrendingViewでCoinbaseを見てみると、3月12日のある時点でDaiは1.126447ドルという高価格で取引されていることが分かります。


3月12日のある時点で1.12644ドルという高価格で取引されているDai(出典: TradingView

担保オークション

オラクルもネットワーク上のその他全員と同様の遅延の影響を受け、その結果価格のアップデートが遅れました。Vault所有者の観点からみると、この影響によって担保を増加させる、またはDaiを購入してVaultに戻す時間が与えられたので、プラスに作用しました。 それに加えてオラクルの価格が遅延したことで、キーパーは流動性にアクセスし、その後のオークションの波に備えるための時間を追加で得ることができました。

前例のない担保価格の下落により、約1,200のVaultのオークションが引き起こされました。ネットワークの混雑と流動性の不足を考慮すると、十分な量のDaiまたは引き起こされた4,447のオークション全てに参加する能力がキーパーにはありませんでした。そのため、通常の市況で予測されているようにゼロ入札を止めることができず、その結果多くのゼロ入札者の落札が可能になってしまいました。キーパーは最終的には流動性を得てキャパシティを拡大し、混雑を回避してその後のゼロ入札を阻止することができました。これによってオークションでの競争力が回復しました。

この出来事以降、ゼロ入札はシステムへの組織的な攻撃またはハッキングであると推測する人もいます。現時点では、この説を支持または断定的に否定できる十分な証拠が揃っていません。

要約:

  • 市場崩壊が起きていた際、約4つのキーパーが起動していて複数の「ボット」を稼働していた。
    • Maker Foundationはキーパーのボットを一つ稼働していたが、そのボットは市場崩壊の際のネットワークの極度な混雑による技術的問題に直面した。
    • 二つのキーパーが市場崩壊の際にいくつものゼロ入札を提出した。
    • 残りのキーパーは最終的にはDaiの流動性を使い果たし、さらなるDaiを調達するまで数時間の間入札ができなかった。
  • 現時点では、ゼロ入札が攻撃またはハッキングであるかどうか断定するには十分な証拠が揃っていない。

Makerガバナンスの反応

Makerプロトコルは透明で誰でもアクセス可能です。イーサリアム・ブロックチェーンに由来するこの特性により、コミュニティとMakerガバナンスは迅速に特定の出来事を認識し、それらに決断力を持って対応することができます。

活動中の分散型ガバナンス

コミュニティは、Makerガバナンス・フォーラムやRocket.chatで協力して市場崩壊と最善の対処方法について話し合いました。MKR有権者はまず初めに、オークションのパラメータが当面の間イーサリアム・ブロックチェーンの運用能力に適応するように調整を行うためのエグゼクティブ投票を可決することで対応しました。その後、Daiが目標価格の1ドルを上回ったことに対するリスクパラメータを調整するための投票が行われました。次にガバナンスは、多様性とさらなる流動性の供給源を提供するために、暗号市場とは相関関係のない担保タイプの追加を提案しました。エグゼクティブ投票の結果、USDCが担保として追加されました。

MKR債務オークション

3月12~13日のゼロ入札の件により、担保オークションの不足額が約540万Daiを超える事態に陥りました。Makerプロトコルのデザインに従って、MKR有権者はMKRの希薄化を行うことで不足分を賄います。Vaultがオークションにかけられた際に、担保オークションでVaultの未払いのDaiを支払うための十分なDaiが調達できない場合は、債務オークションを通じてMakerプロトコルが自動的にMKRを発行し、MKRの価値を希薄します。このリスクがあるので、MKR有権者は責任を持って管理をするよう推奨されています。

したがってMakerプロトコルは、一連のMKR債務オークションを作成し、それを完了させることでシステムの資本を再構成しました。3月29日の段階では20,980のMKRがオークションにかけられ、530万のDaiを調達しました


500万を超えるシステムの債務を指摘したフォーラムのディスカッション

Vaultの清算

約1,200のMaker Vaultが担保不足になり、清算されました。上記のように、Makerコミュニティは現在、ゼロ入札の状況とその結果として生じた清算について議論しています。コミュニティは最終的に、清算されたVaultに関する課題にどう対処するかを決定します。ガバナンス・フォーラムでの議論やMakerの様々なソーシャルメディア・プラットフォームをフォローすることをお勧めします。

要約:

  • Makerガバナンスは迅速に債務オークションのパラメーター調整および変更ならびにシステムへの担保追加の投票を行った。
  • コミュニティは即座にさらなる分析ツールをローンチし、オブザーバーがシステムの調整と変更をより適切に監視できるようにした。更新履歴はこちら。 
  • 3月12~13日のゼロ入札の件により、担保オークションの不足額が約540万Daiを超える事態に陥った。
  • 約1,200のMaker Vaultが担保不足になり清算された。上記のように、Makerコミュニティは現在、ゼロ入札の状況とその結果として生じた清算について議論している。

考察と教訓

困難な外部の混乱を乗り切るために利用可能な、明確で組織化されたシステムのプロセスを使用したMakerガバナンスの人力とシステムの回復力が試されました。良かったことに、Makerガバナンスが迅速に決断力とシステムが機能するという確信を持って行動を起こしました。そしてコミュニティもシステムも両方ともこの経験によってより強力なものになりました。以下が私たちが学んだ教訓です。

  • 担保のポートフォリオが多様であれば、市場の深刻なイベントが起きた際のシステムへの影響が軽減される。Maker Foundationは、現実世界の資産および中央集権的暗号通貨を担保に含め、重要な多様性の恩恵をシステムに与えることの優先が重要だと考えている。中央集権的資産によってプロトコル自体が中央集権化されるという訳ではない。
  • ガバナンスのプロセスは、明確で組織化されていながら、常に進化し続けているシステムのニーズ(例:迅速な新しい担保タイプの追加やリスクパラメータおよびオークションパラメータの変更)に対応できるほど万能でなければならない。ガバナンスのプロセスはまた、コミュニティの参加と協力を引き続き生かしていかなければならない。
  • MakerDAOのシステムは、Vault所有者のリスクマネジメントの増加、Makerガバナンスの参加と意思決定の増加、キーパーの増加そしてDai保有者が作り出した流動性供給源の増加を経験した。これらの有益な貢献によってシステムが強化され、今後もそのような貢献は積極的に推奨されるべきである。
  • 急速な市場の低迷は、キーパーエコシステムの限界をいくつか示してくれた。今後キーパーの役割は、さらに発展および改善されなければならない。キーパーおよびキーパーになる可能性のある者を含むコミュニティとMakerガバナンスは、キーパーエコシステムがより頑丈で多様になるように、キーパーのオペレーション・インフラストラクチャーに関連した課題を考慮し対処しなければなりません。
  • 外部の流動性供給源の多様化が必要であり、エコシステムは中央集権的取引所数カ所だけに依存することはできない。流動性への外部からのルートを確保し取り入れることが、今後重要である。
  • Makerコミュニティは、非常に望ましくない状況にうまく対応し、暗号通貨界で最も熱心で献身的なコミュニティの一つであることを証明してくれた。

Maker Foundationの次のステップ

Maker Foundationの目標はMakerDAOを築き上げ、Makerエコシステムの発展と安定性を確かなものにすることです。Foundationは以下の優先事項に従い、DAOを発展および強化させ、完全に分散化されたガバナンスを育成することを約束しています。

  • コミュニティが、中核であるガバナンスの目的、特にMakerプロトコルとMakerDAOのエコシステムの健全性と安全性の維持に必要なプロセスに尽力し続けられるようにさらに力付ける。
  • 担保の導入、Maker改善提案(Maker Improvement Proposal; MIP)や被選出有給貢献者(Elected Paid Contributors; EPC)などを含む全てのプロセス、フレームワークおよび人々をガバナンスが管理している自律的なMakerDAOを育成する。
  • キーパーエコシステムの発展やオークションのダイナミクスなどの清算構造全体に関するガイダンスを提供する。
  • オラクル、清算凍結ツール、緊急時シャットダウンプロセスおよび再デプロイに関するガイダンスを提供する。
  • Maker Foundationが最終的な目標であるMakerDAOの完全なる分散化とFoundationの解散に向けて取り組んでいる間、上記の手順を続けていく。

Maker有権者であるまたはMaker有権者になることを考えている場合は、有権者オンボーディング・ガイドガバナンスとリスクの概要Awesome MakerDAOからご覧ください。

免責事項この記事での見解は公開日現在のものであり、内容は情報提供のみを目的としています。

April 8, 2020