暗号通貨を善行へ:DePhi—Decentralized Philanthropy(分散型慈善事業)—ブロックチェーンの新たな開拓分野

April 14, 2021

普及が拡大している暗号通貨は、世界中の個人に加え、暗号通貨の流動性を活用し、慈善を行うことを目指しているプロジェクトへも利点を提供しています。デジタルアーティストを含む非営利組織などは、ブロックチェーンを活用することにより、非常にクリエイティブな方法で認知度を高め、目標のために資金調達を行なっています。このように暗号通貨とチャリティが交わることにより、オンチェーンのイノベーションが促進され、トラストレス金融の新たな分野、「分散型慈善事業(Decentralized Philanthropy)」、すなわち「DePhi」に、注目が寄せられるようになりました。

慈善的寄付に暗号通貨が理想的な理由

ブロックチェーン技術を基盤とした暗号通貨は、その多くの利点から、イノベーションのきっかけとなりました。送金およびeコマースに優れているという以下のようなデジタル資産の特性は、チャリティーおよびチャリティーを支える慈善家の両方を惹きつける特性でもあります。

  • 決済処理手数料の低さ
  • 世界中のチャリティ団体へ、効率的で国境に縛られない価値移転
  • 多くの寄付者にとって重要である高度な匿名性
  • 寄付追跡を容易にする透明性

自身の寄付が、非営利団体管理者の私腹を肥やしたり、無駄遣いされていたりせずに、直接人々やプロジェクトの援助になっているかどうかを確認したい人にとっては、暗号通貨寄付が追跡可能であるという点は、非常に有益です。また、暗号通貨の寄付により税金面でのメリットもあります。これは、時間と共に価値が上昇するであろう資産を寄付する人にとっては、特に魅力的な利点です1。さらには、暗号通貨の寄付により、デジタル通貨への関心も高まるでしょう。人気の寄付プラットフォームThe Giving Blockの共同創設者、Alex Wilson氏は、11月のBitcoin Magazineにて、「あなたのお気に入りのチャリティ・プラットフォームが、ビットコインで100万ドルの寄付を受けたことをきっかけに、初めてビットコインについて知ることになったと想像してみてください。他とは大きく異なる方法で、ビットコインについて知ってもらうことができるでしょう。」と述べています。

ETHおよびDaiでの寄付を受け付けているゲーム化された野生動物保護チャリティ団体Wildcardsの共同創設者、Jason Smythe氏は、彼の組織にとって、ブロックチェーンの改ざん不可能性および透明性は、大きな利点であると述べています。「ユーザーが、プラットフォームの開発者である私たちを全く信頼せずとも、野生動物保護への寄付を行い、複数の組織に渡った寄付を追跡できるような、便利な場所を築くことができた。このプロセスは透明かつオープンで、ユーザーも組織も、前触れもなく変更することはできない。」と同氏は説明しています。Wildcardsでは、トレーディングカードのような動物の絵を購入および再販することにより、動物を「飼う」ことができます。

ブロックチェーン技術を活用した比較的新興のチャリティ団体に多くの注目が集まっていますが、暗号通貨やブロックチェーンを最初に採用したのは、地位の確立されたグローバルな非営利組織でした。著名な児童援助組織UNICEFの投資部門、UNICEF Venturesは、2016年以降、自身の目標を推進している、初期段階にあるブロックチェーンのスタートアップ企業に、投資を行なっています2。UNICEF Franceは18年に、単数担保型Dai(Makerの複数担保型Daiステーブルコインの前身)を寄付オプションとして追加しています。さらにUNICEFは、2019年に、暗号通貨での寄付およびオープンソース技術への投資を管理する暗号通貨基金を設立しました。

UNICEF donors worldwide use crypto for good.
UNICEFへの暗号通貨寄付により、世界中の子供たちを助けることができます。

数字は嘘をつかない

暗号通貨の機能により、寄付および寄付の受付が高速かつ容易になっている一方、暗号通貨の普及拡大および市場での価値上昇は、今後さらに多くのことが提供されるだろうという可能性を表しています。2008年3にはただの優れたアイデアでしかなかった暗号通貨が、現在では約2兆ドルにも及ぶ資産クラスにまで拡大したことにより、新たに富を創出した人もいれば、追加の裁量所得を得た人もいます。そして慈善活動にもその恩恵が及んでいます。

慈善組織による暗号通貨の寄付受付、および個人の暗号通貨寄付を円滑化しているThe Giving Blockは、20年12月だけで210万ドルの暗号通貨を受け取りました。大手金融サービスFidelity Investmentsのチャリティ部門、Fidelity Charitableが20年に受け取った暗号通貨寄付額は2,800万ドルで、これは19年に記録された額の2倍以上でした4

自身の所得を人のために共有しようと思っている暗号通貨愛好家がたくさんおり、あらゆるチャリティ団体が、彼らの資金を活用する新たな方法を発見し続けています。

チャリティ団体がDePhi支持者を惹きつけている方法 

暗号通貨の寄付者を惹きつけたいという非営利組織の思いから、「暗号通貨を寄付」ボタンをプラットフォーム上に用意する以上の新たな技術的ソリューション、およびプロモーション戦略が推進されています。 

Wilson氏によるとThe Giving Blockでは、「セーブ・ザ・チルドレン(Save the Children)」や「アメリカがん協会( American Cancer Society)」などの主要組織をはじめとした200近くの非営利組織をサポートしています。ユーザーは、GUSD(Gemini発行のステーブルコイン)やMakerのDaiなど、様々な暗号通貨で寄付が可能です。The Giving Blockを通じて寄付を受け取った組織は、寄付された暗号通貨をHODL(保有)するか、または価格変動による影響を避けるために法定通貨に即座に交換するかを選択できます5。The Giving Blockを介して暗号通貨で資金を調達している非営利組織は、平均で年3万ドルの寄付を受け取っています。

The Giving Block enables donors to do good by giving crypto..
The Giving Blockを通じて、約200の慈善団体が暗号通貨での寄付を迅速かつ容易な方法で受け付けています。

異なるアプローチをとるプロジェクトもあります。CoinbaseのCEO、Brian Armstrong氏によって18年に設立されたGiveCryptoでは、初期の暗号通貨保有者から資金を調達し、貧困の中で生活している、または経済危機などを経験している世界中の人々へ分け与えています6。暗号通貨を直接、受取人の手(またはスマートフォン)に渡すことを目指しているこの組織は、賢いマーケティングを続けている慈善的取り組みの好例です。GiveCryptoの新たなアンバサダー・プログラムでは、コミュニティ内で寄付を必要としている人々を探し、入念に精査し、彼らに暗号通貨の使い方を教えてくれる人を募集しています。GiveCryptoのベネズエラのアンバサダー・プログラムにおいては、チャリティに対して透明性の高いアプローチをとるために、現在リアルタイムのデータを公表しています。

13年に創設された暗号通貨慈善組織の先駆者、BitGiveは、チャリティ団体が特定のプロジェクトへ暗号通貨(またはクレジットカードやデビットカード)で寄付を行うことにより、資金供与を可能にしているプラットフォーム、GiveTrackの開発を行なっています7。GiveTrackでも、プロジェクトへの寄付結果をリアルタイムでユーザーと共有しているため、透明性が高くなっています。BitGiveは、20年11月にこの種では初となるイベントDe-Phi Crypto for Good(De-Phi暗号通貨を善へ)カンファレンスを開催し、暗号通貨の寄付を通じて世界の改善を支援する取り組みをいくつか紹介しました。


GiveTrackでは、サポートしているプロジェクトの透明性を寄付者に向けて示しています。

DePhi支持者を惹きつけている独創的な例の一つが、rTreesです。rTreeは、イーサリアムを基盤に、ユーザーがMetaMaskウォレットで保有しているDaiで利益を生み出すことを可能にしている取り組みです。利益として獲得されたトークンは、チャリティ・プロジェクトTrees for the Futureへ自動的に寄付されます。Trees for the Futureでは、サハラ以南アフリカでの飢餓撲滅および農家育成を目指し、栄養素の高い土壌を作成および保護するために植樹に取り組んでいます。植えられた木は、仮想空間の林に表示されます。ユーザーは「パワーアップ」用の寄付を施すことにより、植樹および成長を加速させ、林を育てることができます。   

アートに影響を受けた寄付

非営利組織がクリエイティブな方法でDeFiアプリを使用し寄付者を募っている一方、アーティストは、プログラム可能な非代替性トークン(NFT)としてアートを作成し、自身がサポートする運動への関心および寄付を集めています。 

アーティストのMicah Johnson氏は、逆境に立ち向かう二人の若い男の子、JacqueおよびRaydenをサポートするために、デジタル作品を製作しました。sä-v(ə-)rən-tēと題されたこの作品は、「自己主権への象徴的な行動であり、アメリカ国内で継続的に行われている平等、多様性および社会的包括に関する議論への自律的かつ芸術的なソリューション」であると、Async.artのJohnson氏のページに記されています。

この作品では、野原にある支えのないドアの片側に二人の男の子が描かれています。ドアの反対側では、男の子たちの夢を表している人物、宇宙飛行士が待っています。毎年それぞれの男の子の誕生日にドアが開き、寄付を送ることができるビットコインのウォレット・アドレスが、彼らの夢と一緒に表示されます。今年からは、Daiでも寄付できるようになりました。男の子たちが18歳になった時、彼らはこの絵からいなくなり、暗号通貨のウォレットを受け取ります。

Micah Johnson is using crypto donations for good.
プログラム可能なアートにより、作品内で画像を重ねることができます。Johnson氏の作品では、宇宙飛行士のレイヤーのみ購入可能です。

ブロックチェーン基盤のアートを介した寄付のもう一つの例が、ファンの間ではミス・ビットコインとして知られている暗号通貨支持者、藤本真衣氏によるものです。藤本氏は1月に、ブロックチェーン・ゲームプラットフォームのEnjinと提携し、チャリティー用のNFTアートプロジェクトをローンチしました8。このプロジェクトでは、日本の有名人が作成したアートをトークン化し、販売することにより、日本の非営利組織、DxPへ資金を提供することを目的としています。DxPでは、新型コロナウイルスのパンデミック禍により、困難に直面している若者を支援しています。

暗号通貨を基盤にした慈善活動

組織も個人も、暗号通貨およびDeFiを創造的な方法で活用することにより、善のための新たな資金調達モデルを発展させています。このような観点から、DePhiの恩恵は暗号通貨の寄付だけにとどまらず、プロジェクトも寄付者もブロックチェーンも、全ての人が得をすることができるような慈善サイクルの形成ヘまでも及んでいます。

MakerDAOおよびブロックチェーン技術が、慈善活動、アートおよび金融を変革している方法についてさらに学ぶには、Makerブログをご覧になり、Makerフォーラムで交わされている多数の議論に参加してみてください。

April 14, 2021