ガバナンス投票:移行リスクとコンストラクト提案

2019年11月15日

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Maker Foundation暫定リスクチーム

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はじめに

2019年11月18日に、Makerプロトコルは複数担保型Dai(MCD)に新しくバージョンアップされる予定です。現在のバージョンである単数担保型Dai(SCD)は、しばらく未定の期間、MCDと並行して存在することになります。この重複期間中、MKRコミュニティは、2つのDai通貨と2つの安定化手数料、つまり2つのエコシステムの管理を任されます。これにより、Makerプロトコルに様々なリスクがもたらされます。そのため我々Maker Foundationの暫定リスクチームは、全体のリスクを軽減するための慎重な移行戦略を提案しています。

移行の概要

注意:現在のSCDバージョンのDaiを「Sai」、新しいMCDバージョンのDaiを「Dai」と呼ぶことにします。

MCD vs. SCD  

SCDは現在約2年間稼働しており、DeFi(分散型金融)エコシステムにおいて、著しい牽引力を発揮してきました。SCDのプロトコルには、バトルテスト済みのコードや比較的簡単に使えるという点など、たくさんの利点があります。しかし我々は以下のような様々な理由から、SCDユーザーは最終的にはMCDに移行すると考えています。

これらの機能により、安定化手数料が低くなり、流動性が改善し、将来的にMakerプロトコルの発展に繋がるでしょう。

ステークホルダー

現在のSCDプロトコルには、Sai保有者、CDP所有者、リクイディティ・プロバイダーおよびMKR有権者の4つの主要なステークホルダーが存在しています。現在Saiは約1億ほど流通しており、それにより以下の責任がこのようなステークホルダーに課せられています。

リスク・コンストラクトの目標は、上記のステークホルダーをSCDからMCDへ安全かつ確実に移行することです。これは、以下によって達成されます。

Sai保有者とCDP所有者は様々な方法で移行を行うことができます。移行の方法によって異なるレベルのリスクが伴い、市場に良くない影響を与えるかもしれません。完全に公開市場上で行われる移行により、制御不能なリスクを含みうる移行方法がエコシステムにもたらされる可能性があります。以下が望ましくない移行方法の例です。

これらのシナリオは以下の理由から望ましくないです。

移行コントラクト 

SaiとDai両価格が不安定になりうる可能性があるため、Makerプロトコル上に特別な移行コントラクトが用意されます。移行コントラクトの機能は、ガバナンスがSaiをMCDの担保タイプとして承認するかどうかによります。 

移行コントラクトは以下のように機能します。

このプロセスは移行コントラクトに完全に含まれているため、Sai保有者もCDP所有者も取引所とやり取りする必要はありません。これにより、SaiとDai両価格の不安定化リスクが軽減されます。このプロセスのオペレーションおよび技術的な詳細についてはこちらをご覧ください。

緊急時シャットダウン

Saiエコシステムを効果的に管理することがもはや不可能である場合、またはコミュニティが望む場合は、SCDで緊急時シャットダウンが引き起こされます。緊急時シャットダウンは、基本的にはプロトコルの巻き戻しであり、これによりSai保有者は、自身のDaiと引き換えに1USDに値するイーサ(シャットダウン時のオラクルの価格に基づく)を手に入れ、CDP所有者は、差し引かれたSaiの残高を除いた担保を取り戻すことができます。

他の緊急時のシナリオにおいても、緊急時シャットダウンを引き起こさなければならないかもしれません。(その一部については、以下でさらに説明します。)

ガバナンス戦略

MCDのローンチは、Makerプロトコルの大幅な改善の集合体です。そこには、DSRなどの新しいガバナンス方法、新たな清算プロセス、および複数担保タイプの導入が含まれています。しかしガバナンスは、いくつものさらなるリスクパラメータを管理しなければならず、それはリスクパラメータが二つ(安定化手数料と債務上限)しかない現在のモデルからの、大幅な増加になります。

さらに、移行は事実上1億あるSaiの利用をやめ、再び1億にもなりうるDaiを利用するを意味しています。短期間に起こる二つの唐突な供給ショックにより、市場の流動性に負担がかかり、SaiとDai両方の安定性が脅かされます。そのため、リスクチームは移行プロセス中の潜在的なリスクを軽減するためにデザインされた慎重なガバナンス戦略を提案します。この戦略の一部には初期リスクパラメータの選択が含まれており、それによって、SaiおよびDaiの価格への悪影響になりうるものがあった時に、それが最小限に抑えられるとリスクチームは考えています。

安定化手数料とDSR

安全で秩序立った移行を達成するための戦略の一つは、組織的かつ予測可能な方法でバージョンアップを行うようユーザーを促すことです。 

Sai保有者に移行を促すシンプルな方の一つは、DSRを紹介することです。Saiと比較すると、DSRによりDaiの保有がより魅力的になります。実証データがないため、DSRの正確な開始値を決定することは難しいですが、DSRが2%ならば、このより広いDeFiのエコシステムとの競合できる可能性が高いです。DeFiエコシステムは現在Saiで~6%の利率を提供しています。他のプラットフォームにある追加のカウンターパーティーリスクを調整したのち、2%のDSRを用いることで、適当数のSai保有者が移行を始めるよう促されるはずです。このパラメータは、必要に応じてガバナンスを通じて調整可能です。

CDP所有者にとっては、SCDとMCD間の安定化手数料のスプレッドも維持され、MCDでDaiを発行した方が安くなるようにすべきです。ETHの安定化手数料のスプレッドは、移行サイクル全体で1~2%になる可能性が高いです。初めは1%の安定化手数料のスプレッドを提案します。CDPユーザーは、しばしば安定化手数料の変更に影響を受けないことが多いので、CDP所有者の行動に即時にかつ強力な変化が生じることは想定していません。1%のスプレッドは慎重すぎるかもしれませんが、さらなるデータが手に入るまでは、慎重すぎるくらいの方がいいと考えています。

我々が注目したいもう一つのインセンティブは、Sai保有者とCDP所有者の移行の一連の流れです。CDP所有者が移行コントラクトからのSaiの流動性を利用することを考慮すると、十分な数のSai所有者が移行を行い、移行に加わる他の人のサポートをすることが重要になってきます。そうでないと、CDP所有者は、公開市場上でSaiを調達することを余儀なくされ、それによって価格に影響が与えられます。

この一連の流れを達成するには、いくつかの方法があります。まず実用的な観点から、Maker Foundationは、ユーザーに代わってできるだけ早く移行を行うか、またはユーザーに手動で移行を行うためのツールを提供するために、たくさんのSai残高を保有する取引所と連携しています。 

しかし望むならばガバナンスは、我々のパートナーとのこの連携された移行を超えて、金融政策を引き続き利用することができます。それに応じて、DSRや安定化手数料スプレッドの増加はステークホルダーに影響を与えるはずです。

債務上限

債務上限に関しては、いくつか考慮されるべき点があり、それらはSCDとMCDで個別に監視および管理されます。 

債務上限の余裕は、マーケットメーカーが効果的にSaiの安定を維持する役割を果たすのに重要なツールです。なのでガバナンスは、必要ならばマーケットメーカーが流動的なSaiへ十分にアクセスできるように、常に債務上限に十分な余裕があるようにしておかなければなりません。1000~2000万Saiのゆとりを持つことを推奨します。

MCDのETHの債務上限については、必要ならば5000万まで引き上げることを提案します。Saiの供給が移行するにつれて、SCDの流通量が減っていきます。なので、MCDの債務上限を同時に引き上げられるように、SCDの債務上限は引き下げられるべきです。しかし、マーケットメーカーの流動性バッファーとしてのSaiの最小供給量は、Saiの最大債務上限が引き下げられた時でも、そのままにしておくべきです。

金融政策ガバナンス

我々の最初のリスクパラメータの提案は、新しいプロトコルへの第一歩として理にかなっていますが、今まで通りのオペレーション手順は、引き続き適用されます。レバレッジに対する需要の変化、変動の激しいイーサの価格、または意見の移り変わりといった典型的な負荷は、SaiまたはDai価格を不安定にするかもしれません。ガバナンス・コミュニティは引き続き、今までと同じ一般的なメカニズムを使用して、SaiとDai両方のペッグを管理していきます。

しかし、今度は移行に伴って発生し、債務上限、安定化手数料またはDSRの迅速な修正を必要とする移行特有の追加の問題が起こる可能性を考慮しなければいけません。迅速に様々なマーケットからの負荷に対応できるように、ガバナンスは、これらの金融政策を用いて機敏でかつ用心深くなければなりません。

起こりうる状況の全てを予期することはできませんが、ローンチから数週間後の間に、ガバナンスコミュニティーに関係するかもしれないいくつかの状況に焦点を当ててみたいと思います。

この政策ツールの原則として、インセンティブの対象としてDSRではなく安定化手数料を使うことを推奨します。DSRはまだ発展途中であるため、金融政策ツールとしては効果的ではない(または予測不可能)である可能性が高いです。さらに、安定化手数料の変更があった場合は、SCDとMCD間のスプレッドを適切に維持することを目的とするべきです。 

緊急時シャットダウン

状況によっては早期の緊急時シャットダウンが必要かもしれません。この緊急時シャットダウンが起こりうる可能性が最も高いのは、Saiの流動性が低下し、価格の変動幅が非常に不安定になり、bit/ask(売値と買値)のスプレッドが広がった時です。債務上限に十分な余裕があったとしても、価格が上昇し続けることが予期される場合には、マーケットメーカーはSaiを発行および売却したがらないかもしれません。マーケットメーカーが率先してSaiの売却を行うには、緊急時シャットダウンが信頼できる警告であると確信してなければなりません。

緊急時シャットダウン時においては、Saiは目標価格である$1USDで返済されるので、これを認識することは、目標価格にむけてSaiに下方圧力をかけることの手助けになるでしょう。

ガバナンス投票とエグゼクティブ投票 

移行の本質は予測不可能であるため、金融政策に関しては予定に含まれていない行動をとる心構えをしておかなければなりません。いくつかの状況においては、急な通知を受けて緊急措置を取る必要があるかもしれません。このためコミュニティは、ガバナンスコール、ガバナンス投票、およびエグゼクティブ投票の回数が増加することを予期し、緊急時シャットダウンに関するディスカッションと投票を注意深く意識しておくべきです。Maker Foundationは、このような行動が必要な場合は、利用可能な全てのコミュニケーション・プラットフォームを使用してコミュニティに通知します。

新しい担保タイプ 

リスクチームは、イーサ(ETH)に加えて、7月に行われた資産優先度投票で最高得点を獲得したBasic Attention Token (BAT)を新しい担保タイプとしてローンチすることを提案しています。ローンチ時にこの新しい担保を追加する主な理由は、開発コミュニティのエンジニアがMaker プロトコルのすべての機能を完全にテストできるようにするためです。ローンチから数週間後に、BATのより正式な分析とリスク評価が発表されます。我々は、今のところは300万と債務上限を控えめにし、簡潔さのためにETHと全く同様の安定化手数料にすることを提案します。

リスク分析

この章では、移行リスクの例をその予想される対応策と共に調査していきます。MCDのローンチは本質的に予測不可能なため、このリストは完全なものではありません。以下のリスクは、起こりうる可能性の高さや深刻度の順に記載されている訳ではありません。

移行のペースが遅すぎる例 

移行のペースが遅すぎると、SaiとDaiの安定性に関する望ましくない副作用を引き起こす可能性があります。まず初めに、二つのペッグと二つのエコシステムを管理するのに必要なオペレーション上のおよび社会的な負担が大幅に増加します。この二つの並行したエコシステムによって、流動性が破壊され、混乱が起こり、消費者の信頼が失われ、もしくは我々のエコシステムパートナーのビジネスに障害が発生する、またはそれら全てがもたらされる可能性があります。

対応策 

「遅すぎる」とは何かを数値化すること、または移行の目標タイムラインを特定することは難しいです。しかし、市場原理に対応するために、コミュニティはガバナンスプロセスに依然として注意を払うべきです。例えば、初期リスクパラメータに対する市場の反応によっては、ガバナンスは必要に応じてDSRまたは安定化手数料のスプレッドを増やすことを選択できます。

移行のペースが早すぎる場合 

プロトコルのバージョンアップは予測できない結果をもたらすことが多く、急激にユーザーベースを移行させると潜在的な問題を悪化させる可能性があります。現在、各ガバナンスサイクルを完了するのに長い時間が必要なため、コミュニティはシステムに対する新たな脅威に対応できない場合があります。

対応策 

上記のリスクと同様に、ガバナンスは移行のペースを監視し、それに応じてリスクパラメーターを調整する必要があります。ガバナンスプロセスのスピードを上げるために、追加でガバナンスコールを行う必要もあります。 

セカンダリー・レンディング・プラットフォームの借り手が移行コントラクトを使用しない可能性が高い例

CompoundやdYdXなどのセカンダリー・レンディング・プラットフォームは、Maker Protocol最大のエコシステムユーザーです。合計で、約5000万Saiがこれらのプラットフォームに預けられてきました。この数から考えると、およそ3000万Saiが借り手に貸されてきました。

これらのセカンダリー・レンディング・プラットフォームの借り手は、担保に対してSaiの返済義務があるという点で、メーカーCDPの所有者に似ています。ただし、セカンダリー・レンディング・プラットフォームのSaiの借り手は、自身のポジションをクローズするために移行コントラクトからSaiの流動性に直接アクセスすることはできません。

これにより以下のようないくつかの結果がもたらされます。

対応策 

Sai価格の上昇に対する一般的な対応は、安定化手数料を減らし、マーケットメーカーがより多くのSaiを発行し、価格を押し下げるよう促されるよう奨励することです。これを行うには、マーケットメーカーにとっての十分な債務上限が必要です。

公開市場または移行コントラクトのSaiに流動性がない例 

Saiの流動性が枯渇し、CDPの所有者とセカンダリー・レンディング・プラットフォームのSaiの借り手が移行を行うのが難しくなり、Saiの価格を上昇するかもしれないリスクがあります。これは、以下のような様々な理由から起こり得ます。

対応策 

理想は、Sai保有者を早期に移行するよう促し、十分な流動性を確保できる方法でリスクパラメータを設定することです。しかし、これらのシナリオのいずれかが発生した場合、Sai価格は急上昇します。いくつかの場合においては、マーケットメーカーは、価格を調整するためのバランスシートのキャパシティを持たないことがあります。このシナリオが続く場合、緊急時シャットダウンを引き起こすことが唯一利用可能なオプションです。その結果、この状況が発生した場合、コミュニティは緊急手段を行わなければなりません。

MCDのETH債務上限がリスク・エクスポージャーを高める例

CDP所有者とセカンダリー・レンディング・プラットフォームの借り手の移行を円滑に行うために、適当なDaiの債務上限が設定されなければなりません。しかし、SCDとMCDで包括的債務上限が二倍になると、意図せずにMakerプロトコルのエクスポージャーリスクが増加します。この追加の債務上限は、特にCDP所有者の移行を円滑にすることを目的にしていますが、新規ユーザー(または攻撃者)の新しい債務上限の余裕の利用を止めるものは何もありません。これにより、供給ショック引き起こされ、Daiの流動性によくない影響が及ぼされるかもしれません。

対応策

理想的には、MCDのETH債務上限は一度に大量に発行されすぎたDaiから保護するのに十分なほど低くあるべきですが、供給量を使い果たさないで移行を円滑に行うのに十分なほど高くなければなりません。Daiレバレッジ への新たな需要の急増は想定していませんが、Makerプロトコルは、5000万という予想外のDaiの供給量の増加に対応できると考えています。

結論

Makerプロトコル内に二つ目のエコシステムを始動させることには、使い慣れたツールおよびいくつかの新しいツールを用いながら、一連の未知のものを管理することが伴います。単一担保型Saiと連携している単一担保型Daiを正確にモデル化するために利用できる実証データがないため、暫定リスクチームは、ガバナンスが以下の提案を承認して、論理的で慎重なデフォルトを用いてMCDのローンチを開始することを推奨します。暫定リスクチームは、以下の別表に記載されているパラメーターの提案を使って、ガバナンスはMCDのローンチ後の市場が必要な新しい金融政策を管理し始め、安定した基盤を作ることができると考えています。

コミュニティがこの提案を受け入れた場合、MCDのローンチ時に以下のリスクパラメータを始動するためのサポートを合図します。

リスクパラメータの提案

担保タイプ:イーサ(ETH)


担保タイプ:単数担保型Dai(Sai)

担保タイプ:Basic Attention Token (BAT)

システムパラメータ










2019年11月15日